pan-1

「若いウチは都会に憧れて、

学校を卒業すればすぐ飛び出すようにみんな都会(まち)に出ちゃうけど、

ある程度の年齢を境に、無性に故郷に帰りたくなる。」


よく聞く話ですよね。


でも僕には、

生まれた土地や、

育った場所を、


「故郷」や「クニ」


と呼ぶような特別な感情や思い入れがありません。


親しい友もいれば、大好きな場所もたくさんあるのに。


たぶん

きっとそれが小さい頃から

「放浪癖がある。」とよく言われる所以なのでしょう。


「だからなんなんですか?」


と、口ではそう答えてきたものの、

自分には人として大切な感情の一つが欠落しているのかもしれない、と考えたことがあるのも事実です。


一昨日のこと。

保育園に通う3才になる次女を、夕刻迎えに行きました。


保育園の玄関を出て、

いつもなら山道を駆ける子犬のように一定のリズムで振り向きながらどんどん1人で走っていく彼女が、

雨に濡れた歩道を怖がって

僕の左手をギュッと握りしめます。


よく知っているはずの彼女の手の温かくて柔らかい感触が、

なぜだかいつもと違うように感じられたのです。


「こいつの手って、こんなに優しかったかな。」


親の情とは違うもの?


はっとしました。


「俺の故郷はたぶんこれだ。」


彼女の大好きな鼻歌をいっしょにくちずさむ帰り道。


「♪まっかなゆ~やけおいかけぇ~お~れたちゃながれるROCK'N ROLL BA~ND!!」 


ぱん衛門