4才ぐらいの男の子を連れたお客様が店の入り口のドアから入って来られました。
「カランコロン。」
「いらっしゃいませ!」
その小さなジェダイは、
一通り店内を見渡すとすかさずひとつのパンを指さしたのでした。
「お母さん、ほらほら、見て見て見て。こーんなところに『まっくろくろすけ』がいるよっ!」
彼はニコニコ有頂天です。
『トトロの朝ごはん 』というそのパンのプライスカードには
ちっちゃなイラストが添えてあるのです。
座ったトトロと、
隣に立つ小トトロがそのパンを頬張っている。
そのまたうーんと右端に
ひとつだけ『まっくろくろすけ』が描かれていて、
離れて見ればほとんどサインペンの汚れぐらいにしかみえないようなそれを、
彼はめざとく見つけたのでした。
誰も気が付かないだろうと思っていました。
今まで500人を越える数の子供たちが
「あ、トトロ。」
で済ませたイラストです。
あとにも先にもきっと1人だけでしょう。
絶滅のおそれのある希少種を
久しぶりにまた1人発見しちゃった気分です。
こんな感性はあとから育まれるものではなくて、
ひとりひとりが
母親から産まれる時に、
こっそり携えてくる小さな宝物の一つだと思っています。
とても素敵な宝物。
ぼーず、20年後、楽しい仕事をいっしょにしような。
仕事がムリならいい飲み友だちになれると思うぜ、おじさんはさ。
早くおっきくなれ。
結局、彼は店を出るまでトトロには一言も触れませんでした。
ぱん衛門